ゾフ氏、Thinking MachinesからOpenAI経てGoogleへ電撃復帰
Thinking Machines Labの共同創業者だったバレット・ゾフ氏が、OpenAIでの5カ月間の在籍を経て、Googleにリサーチ担当副社長として復帰した。AI業界トップ人材の異例の移籍劇が続いている。

AI業界幹部の椅子取りゲームがまた一つ動いた。OpenAIを離れてミラ・ムラティ氏とThinking Machines Labを共同創業したバレット・ゾフ氏が、今度はGoogleにリサーチ担当副社長(VP of Research)として加わることが明らかになった。Googleの広報担当者は米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、「バレットがGoogleに戻り、Gemini向けに強化学習とポストトレーニングの専門知識をもたらしてくれることを楽しみにしている」と述べた。
ゾフ氏自身もX(旧Twitter)で復帰を発表し、「Google DeepMindに加わることを発表できて嬉しい。私はGoogle Brain Residencyのクラスからキャリアをスタートさせており、再び加わることができて嬉しい。強化学習とポストトレーニングに取り組む予定で、詳細は近く発表する。GoogleにはAI分野で成功を続けるためのあらゆる要素が揃っており、そのミッションの一部になれることにワクワクしている」と投稿した。
混迷を極めた1年半のキャリア
ゾフ氏にとって、Googleは実は3社目ではなく「原点回帰」に近い。同氏は2016年にGoogle Brain Residencyプログラムでキャリアを開始し、AutoMLやニューラルアーキテクチャサーチの研究に従事、Google BrainがGoogle DeepMindに統合された後もチームに残った。2022年にOpenAIへ移籍し、ポストトレーニング担当のリサーチ担当副社長として、アライメントやツール利用、評価、そして最終的にChatGPTに搭載されたモデルの開発に携わった。
2024年9月、CTOを退任したムラティ氏とともにOpenAIを離れ、Thinking Machines Labを共同創業してCTOに就任した。同社はAndreessen Horowitzなどから約20億ドルを調達し、設立から数カ月で評価額は約100億ドルに達したと報じられている。しかし2026年1月、ムラティ氏はゾフ氏との決別を発表し、PyTorchの共同開発者であるスミス・チンタラ氏を新CTOに指名した。その1時間後には、OpenAIのフィジー・シモ氏が、ゾフ氏がルーク・メッツ氏やサム・シェーンホルツ氏ら他の共同創業者とともにOpenAIへ復帰することを確認した。後に、ゾフ氏はThinking Machinesを解雇されていたことが明らかになった。WSJは、公表されていない職場での人間関係がゾフ氏の退社の一因になったと報じているが、本人・同社ともに詳細を公にしていない。
Google DeepMindに加わることを発表できて嬉しい。私はGoogle Brain Residencyのクラスからキャリアをスタートさせており、再び加わることができて嬉しい。
OpenAIでの5カ月、そして二度目の離脱
OpenAIに復帰したゾフ氏だが、今度は研究職には戻らなかった。同社が任せたのは、上場(IPO)を控えて競合との商業面での差を縮める上で中核と位置づけられていた、エンタープライズ向けAI営業部門の統括という、これまでと大きく異なる役割だった。この在籍期間はわずか5カ月で、2026年6月、ゾフ氏は社内Slackに別れのメッセージを投稿してOpenAIを再び去った。そしてGoogleが、その先で待っていたことになる。
- 2025年10月:共同創業者アンドリュー・タロック氏がMetaへ移籍(9桁規模の報酬パッケージを一度拒否した後に受諾したと報じられる)。
- 2026年1月:ゾフ氏とルーク・メッツ氏がThinking MachinesからOpenAIへ復帰。
- 2026年7月:AI安全担当VPだった共同創業者リリアン・ウェン氏が、スタートアップのペースで悪化した体調不良を理由に退社を発表。
- 2026年8月:ゾフ氏がOpenAIを離れ、GoogleでVP of Researchに就任。
薄まる創業チーム、それでも止まらない製品開発
Thinking Machinesは2025年2月、6人の共同創業者によって設立されたが、その顔ぶれは発足直後からほぼ一貫して縮小を続けている。ゾフ氏の退社により、ムラティ氏は事実上、創業メンバーの中で唯一残る形になった。対照的に、Anthropicは創業メンバー全員を維持し続けている点で異例だとされる。それでも同社の製品開発は止まっていない。ファインチューニング基盤「Tinker」をリリースしたほか、音声と映像をネイティブに処理するリアルタイム「インタラクションモデル」の研究プレビューを公開し、7月には975億パラメータのオープンウェイトモデル「Inkling」を発表、米国製オープンモデルのランキングで首位に立った。
ゾフ氏の移籍は、Google DeepMindが今年、人材の巻き戻しに積極的に動いている流れとも重なる。同社は一部の人材を失う一方で、獲得にも動いてきた。ゾフ氏の発表の数週間前には、トランスフォーマー論文の共著者でDeepMindの古参であり、Googleが Character.ai経由で20億ドル超をかけて再獲得したノーム・シェイザー氏がOpenAIへ移籍した。また、AlphaFoldの研究で2024年のノーベル化学賞を共同受賞したジョン・ジャンパー氏も、ほぼ同じ時期にAnthropicへの移籍を発表している。この文脈の中で、Google Brain Residency出身のリサーチャーを呼び戻したことは、研究部門トップ層に生じつつある空白を埋めるための意図的な一手と見られている。
OpenAI自身も、この8カ月でCOOの退任や大手データセンター責任者の一人の離脱など、幹部人材の流出が相次いでいる。日本のAI企業にとって、この一連の椅子取りゲームは対岸の火事ではない。Sakana AIをはじめ、国内でトップクラスの研究者を確保しようとする企業は、GoogleやOpenAI、Anthropicが数カ月単位で提示する巨額の報酬や電撃移籍という、世界標準の争奪戦に直接さらされている。ゾフ氏の1年半にわたる移籍劇は、フロンティアAIの最前線において、優秀な人材への忠誠心がいかに流動的になっているかを改めて示す事例と言える。
出典
- Barret Zoph, the Thinking Machines co-founder ousted before joining OpenAI, is now at GoogleTechCrunch · 2026年8月27日
- Thinking Machines Co-founder Barrett Zoph Leaves OpenAI To Join GoogleOfficeChai · 2026年8月27日



