Nscale、IPO前に35億ドルの資金調達を模索
創業わずか2年の英国のAI計算基盤企業が、エヌビディアからの20億ドルを含む最大35億ドルの調達を交渉中。今月にもニューヨークで予定される新規株式公開(IPO)を前にした動きだ。

創業からわずか2年の英国のAIインフラ企業Nscaleが、ニューヨークでの新規株式公開(IPO)を前に、最大35億ドル規模の資金調達について協議していると、ブルームバーグ(Bloomberg News)が2026年9月4日、事情に詳しい関係者の話として報じた。ロンドンを拠点とする同社は、AIの処理負荷向けにGPUを搭載したデータセンターを建設・運営している。TechCrunchおよびThe Next Webによると、Nscaleは早ければ今月にも予定される上場に先立ち、この資金調達を完了させたい考えだという。
Nscaleが実際に手がける事業とは
Nscaleは、競合するハイパースケーラーほど広く知られた名前ではない。2024年に設立された同社は、自らAI製品を開発するのではなく、データセンターを建設し、そこに搭載したGPUの計算能力——AI研究機関が大規模モデルを訓練・実行するために必要とする、いわば計算力そのもの——を貸し出すビジネスを展開している。このモデルのもとで急成長を遂げてきた。2024年12月には1億5500万ドルのシリーズAを実施し、続く2026年3月には、投資ファンドAkerが主導し、エヌビディアも参加する11億ドルのシリーズBを実施した。Nscaleはこのラウンドを「欧州史上最大規模のシリーズB」と称した。今回のIPO前ラウンドは、この両方をはるかに上回る規模となる見通しだ。ヘッジファンドのThird Pointが主導する最大15億ドルの転換社債(後に株式に転換できる負債の一種)に加え、エヌビディアから直接約20億ドルを調達する計画で、ゴールドマン・サックスがこの調達の助言を担っている。
なぜAI計算需要がこの規模の調達を正当化するのか
この資金調達の規模は、たった1件の契約に端を発している。2026年8月26日、AnthropicがNscaleに対し、計算能力の対価として450億ドルを支払うことに合意した。この契約は現在、同社が計画する上場を支える柱となっている。The Next WebがBloombergの取材を基に報じたところによると、Nscaleは潜在的な投資家に対し、契約済みの受注残高が総額約1030億ドルに達したと説明しており、これはわずか4週間前の約510億ドルから大きく増加した数字だという。報道によれば、この計算能力は当初、他の買い手にも提示されていた。Semaforの報道では、マイクロソフトは自社のデータセンター事業を見直す過程で、この夏、同様の契約から撤退したとされ、グーグルも自社の設備投資計画を精査した末に見送ったという。両社とも世界最大級のAIデータセンター群を運営しており、資金力の最も豊富な買い手にとってさえ、GPUとデータセンターの供給がいかに逼迫しているかを浮き彫りにしている。
- ヘッジファンドのThird Pointが主導する15億ドルの転換社債。IPO価格に対して二桁の割引率が設定され、評価額の上昇とともに割引幅は縮小し、評価額300億ドルに達すると調整が止まる
- エヌビディアから直接調達する約20億ドル。同社は2026年3月のNscaleの11億ドル規模のシリーズBにも出資していた
- 契約済み受注残高は総額1030億ドルで、4週間前の約510億ドルから大幅に増加
- そのうち450億ドルは、2026年8月26日に締結されたAnthropicとの単一契約による
- 北欧の銀行群とノルウェーの輸出信用機関Eksfinが、Nscaleのナルヴィク(Narvik)データセンター向けに確約した融資7億9000万ドル
- 契約済みのエヌビディア製Vera Rubin GPUは約19万4000基
この受注残高と、Nscaleの実際の売上との間には大きな開きがある。同社は投資家に対し、将来的には年間売上高で約181億ドル、調整後利益で約136億ドルを見込めるとしているが、これらの数字は正式な業績予想ではなく「例示」にすぎないと自ら説明している。比較すると、Nscaleが2025年通期に計上した売上高はわずか約3300万ドルで、直近四半期でようやく1億ドルを超えたところだと、The Next Webは伝えている。同社の取締役会には、メタの元幹部シェリル・サンドバーグ氏や、英国の元副首相ニック・クレッグ氏らが名を連ねている。
データセンター、GPU、電力をめぐる、より広い争奪戦
Nscaleの資金調達は、AIインフラ各社がチップ、建物、電力を同時に確保しようとする、より広範な争奪戦の一部でもある。同社がノルウェー北部のナルヴィクに構えるデータセンターは、ABN AMRO、DNB、ノルデア、SEB、そしてノルウェーの国営輸出信用機関Eksfinから、確約ベースで7億9000万ドルの融資を引き出した。この立地は、冷涼な気候と北欧の水力発電へのアクセスを理由に選ばれたもので、当地の顧客はマイクロソフトである。今回のIPO前ラウンドでエヌビディアが拠出する約20億ドルは、Nscaleがすでに発注しているエヌビディア製Vera Rubin GPU約19万4000基と並存する形になる。つまり、このチップメーカーは、自社製チップの大口購入者でもある企業に対して、資金面でも支援する構図になる。投資家が真の最終利用者の需要と、供給側自身が資金を出して作り出した需要とを見分けようとする中、この種の資金調達パターンはAIインフラ業界の他の場面でも注視されている。
自前でデータセンターを構築せず、外部のAIクラウド計算基盤事業者に依存している日本企業にとって、Nscaleの今回の資金調達は注視すべきシグナルといえる。これは、AI計算能力の供給がいかに集中しているかを物語っている。創業わずか2年の企業が、単一のAI研究機関から450億ドル規模の契約を、そして世界最大手のチップメーカーから20億ドルの出資を得られる一方で、はるかに潤沢な資金力を持つクラウド大手はコストを理由に同様の取引を見送っている。こうした集中は、調達側の企業にとって二面性を持つ。NscaleのようなGPU依存型の事業者に資金が流れ込むこと自体は、長期的には利用可能な計算能力の増加につながり、供給拡大に伴って価格に下押し圧力がかかる可能性もある。しかし、契約済みの受注残高が現在の実際の売上高をはるかに上回り、最大の出資者が同時に主要な半導体供給元でもある企業は、実行リスクと資金調達リスクを抱えており、長期の計算能力契約を結ぶ顧客はそのリスクを間接的に引き継ぐことになる。特定の外部AIインフラ事業者一社に依存している企業は、この機会に契約上の容量保証や価格保護条項を点検し、まだ利益を出せておらず上場を控える一社の供給元に、事業の要となる計算能力を委ねるリスクを単独で負う価値があるかどうかを見極めるべきだろう。
出典
- AI compute provider Nscale is looking for $3.5B in pre-IPO financingTechCrunch · 2026年9月4日
- AI cloud firm Nscale seeking $3.5B in pre-IPO financing from Nvidia and Third PointThe Next Web · 2026年9月4日



